不動産DXの事例を調べても、出てくるのは大手デベロッパーや不動産テック企業の大規模な取り組みばかりで、自社には縁遠く感じる。そんな中小の仲介・管理会社に向けた記事です。ここで紹介するのは、社員数名から数十名規模の会社が、数万円から数十万円規模で始められる等身大の改善だけです。マイソク作成の自動化、追客の仕組み化、物件確認電話の負担削減、オーナー向け月次報告の自動作成、そしてバラバラになったエクセルの統合の5つです。それぞれ課題・打ち手・変化という同じ型で整理します。読み終えたときに、自社ならどの工程から手をつけられそうかを具体的にイメージできることを目指した内容です。
なぜ大手の不動産DX事例は中小の会社の参考にならないのか
先に結論をお伝えすると、大手のDX事例が中小の参考になりにくいのは、規模・予算・体制という前提が根本から違うからです。同じ「不動産DX」という言葉でも、指している中身がまったく別物になっています。
大手の事例には、次のような前提が隠れています。
- 数千万円から数億円規模の予算があり、専任のシステム部門が組める
- 全社共通の基幹システムを一括で入れ替える体力がある
- 数百人が同じルールで使うことを前提に、標準化を先に進められる
一方、中小の仲介・管理会社の現実はまるで違います。情シス担当は不在か営業との兼任で、日々の業務を回しながら片手間で改善するしかありません。予算も、いきなり数百万円を投じるのは現実的ではなく、まずは数万円から数十万円の範囲で試したいのが本音です。
この違いを踏まえると、中小の会社が真似すべきなのは大手の完成形ではなく、方向性だけです。全業務を一度に変えるのではなく、いま一番手間になっている1工程を、自社のやり方に合わせて小さく仕組み化する。この記事で紹介する5つの事例は、すべてこの考え方に沿っています。以降は、実際の現場でどんな改善がありうるかを、具体的な工程ごとに見ていきます。
事例1・2|物件資料と反響対応の手間を減らす
物件資料の作成と、集めた反響への対応は、多くの会社で日々の時間を静かに奪っている工程です。ここでは、その2つを軽くする改善を紹介します。どちらも「同じ情報を何度も触っている」という共通点があります。
1. マイソク作成を物件マスタから自動生成する
課題としてよく挙がるのが、マイソク作成に想像以上の時間がかかっている点です。1枚あたりは数十分でも、扱う物件数と掲載媒体が増えるほど、家賃や面積を何度も打ち直す作業が積み重なっていきます。同じ情報を店頭用・ポータル用・送付用と場面ごとに入力し直すため、打ち間違いの機会も増えていきます。
打ち手は、物件情報を1か所のマスタにまとめ、そこからマイソクを生成する形に切り替えることです。家賃・敷礼・面積・最寄駅・写真を一度登録すれば、その組み合わせから図面が出力されるようにします。こうすると、転記の回数そのものが減り、桁を間違えたマイソクがそのまま配られるような事故も起きにくくなります。こうした改善の進め方は、マイソク作成の効率化・自動化で段階を追って整理しています。
この改善は、いきなり大きなシステムを入れなくても始められます。まずはエクセルの物件一覧から差し込みでまとめて出力する形にするだけでも、1枚ずつ手で作る運用よりは負担が下がります。そこから、物件情報の登録場所を1つに寄せていくと、転記の回数がさらに減っていきます。
変化として期待できるのは、作成時間の短縮だけではありません。情報の入り口が1つになることで、物件情報を修正したときに直す資料が1か所で済み、最新版がどれか分からなくなる混乱も減っていきます。
2. 放置されがちな反響を追客の仕組みで拾い直す
もう1つよくある課題が、せっかく獲得した反響が、対応しきれずに放置されてしまうことです。問い合わせ直後は連絡するものの、すぐ成約に至らなかった見込み客への追いかけが、担当者の記憶と手作業に頼りきりになっている状態です。忙しい時期ほど、この掘り起こしが後回しになります。
打ち手は、反響を1か所に集め、いつ・誰に・次に何をするかが自然と見える形にすることです。高機能なツールを入れる話ではなく、反響の状態が一覧で追えて、一定期間動きのない見込み客が浮かび上がる仕組みがあれば十分です。ここで大事なのは、担当者に細かい入力を強いないことです。入力を強いる仕組みは、どれだけ高機能でも現場で使われなくなっていきます。
筆者は以前、営業代行の会社で数百件規模の営業活動の管理を担当していました。当初は営業ログがなかなか溜まらず、追いかけの抜けが絶えませんでした。そこで、日々の業務を回すだけで情報が自然と溜まる形に設計を変えたところ、放置される案件が目に見えて減っていきました。不動産の追客でも構造は同じで、記憶に頼る運用を、情報が勝手に溜まる運用へ変えることが変化の起点になります。
事例3・4|問い合わせ対応と報告業務を軽くする
電話対応と定型の報告作成は、集中したい時間を細かく分断してしまう工程です。ここでは、その2つの負担を減らす改善を紹介します。いずれも「人が毎回対応しなくてよい部分」を切り分けるのがポイントです。
3. 物件確認の電話対応を減らす
課題は、他社からの物件確認電話が1日に何度もかかり、その都度作業が中断されることです。「あの物件はまだ空いていますか」という問い合わせに答えるだけとはいえ、担当者が空室状況を調べ直して口頭で伝える手間は、件数が増えるほど無視できなくなります。かける側にとっても、つながるまで待つ負担があります。
打ち手は2つの方向があります。1つは、空室情報を1か所に集めて常に最新の状態を保ち、社内の誰が見ても即答できるようにすることです。もう1つは、よくある確認については自動応答や共有ページで代替し、電話そのものを減らす方向です。空室の一元管理ができていれば、こうした自動化にもそのまま活きてきます。
現場でよく効くのは、大がかりな電話システムを入れることではなく、まず空室状況の一元化から着手する順番です。物件の空き状況が担当者ごとの記憶や個別のメモに散らばっていると、誰かに聞かないと答えられない状態が続きます。ここを1か所にまとめて最新に保つだけでも、確認電話への即答率が上がり、折り返しの往復が減っていきます。
変化として期待できるのは、電話対応に取られる細切れの時間が減り、接客や資料作成といった本来集中したい業務にまとまった時間を回せるようになることです。中断が減ると、担当者が感じる「一日中電話に追われている」という疲れも軽くなります。
4. オーナー向けの月次報告を自動で組み立てる
管理会社に多い課題が、オーナーへの月次報告の作成です。入金状況、募集の進捗、対応した修繕などを、複数の資料から手作業で集計して転記する作業は、月末に一定の時間を奪います。管理戸数が増えるほど、この作業は膨らんでいきます。
打ち手は、報告に必要な数字を普段の業務で使うデータから拾い、決まった様式に流し込む形にすることです。入金や募集の情報がすでにどこかに記録されているなら、それを報告の様式に集約するだけで、毎月の集計転記の多くは省けます。オーナーごとに様式が違う場合でも、変わる情報と変わらない情報を分けておけば、差し替える箇所だけを更新すればよくなります。
変化として期待できるのは、月末に集中していた報告作成の負担が平準化し、転記ミスによる訂正のやり取りも減っていくことです。
