業務棚卸とは
業務棚卸(業務の棚卸し)とは、組織や部署が行っている業務を漏れなく洗い出し、整理・可視化することです。
小売業における「棚卸し」は、在庫の数量と状態を確認する作業です。業務棚卸もこれと同じ考え方で、日々の仕事を「在庫」に見立てて全体像を把握します。
業務棚卸を行うと、以下のようなことが明らかになります。
- 誰がどの業務を、どれくらいの時間をかけて行っているか
- 重複している作業や、不要になった業務がないか
- 特定の人に業務が偏っていないか
- 自動化やツール導入で効率化できる業務はどれか
業務改善やDX推進の第一歩として、業務棚卸は欠かせないプロセスです。全体像を把握しないまま改善を進めると、部分的な最適化にとどまり、根本的な問題が解決されないケースが多くあります。
業務棚卸が必要なタイミング
業務の棚卸しは「いつかやろう」と後回しにされがちです。しかし、以下のようなタイミングでは、優先的に取り組む価値があります。
退職・異動が発生するとき
担当者が抜けると、その人が抱えていた業務が見えなくなります。引き継ぎの前に業務棚卸を行うことで、抜け漏れを防げます。属人化した業務ほど、棚卸しの効果は大きいです。
業務改善に着手するとき
「なんとなく忙しい」「残業が減らない」という状態は、業務の全体像が見えていないことが原因であることが多いです。改善の前にまず現状を正確に把握する。これが業務棚卸の役割です。
DX推進・ツール導入を検討するとき
新しいツールやシステムを導入する際、業務棚卸なしに進めると「使われないツール」が増えるだけです。どの業務をどう変えたいのかを整理してから、ツールを選定する順序が重要です。
組織体制が変わるとき
部署の統合・分割、チーム再編のタイミングでは、業務の再配分が求められます。業務棚卸をしておくと、適切な業務配分の判断材料になります。
新規事業やプロジェクトの立ち上げ時
既存業務の負荷を把握しないまま新しい取り組みを始めると、メンバーがオーバーワークになりがちです。棚卸しで余力を確認してから、新業務を割り当てましょう。
業務棚卸の進め方(5ステップ)
業務棚卸を効果的に進めるための5つのステップを紹介します。
ステップ1:対象範囲を決める
最初に「どの部署・どのチーム・どの業務領域を対象にするか」を明確にします。
範囲を限定せずに始めると、情報量が膨大になり、途中で頓挫するリスクが高まります。まずは1つの部署やチーム単位で始めることをおすすめします。
対象範囲を決める際のポイントは以下の通りです。
- 業務改善の目的に直結する範囲に絞る
- 協力が得られるチームから着手する
- 期間を区切る(例:直近3か月の業務を対象にする)
ステップ2:業務を洗い出す
対象範囲が決まったら、その範囲に含まれる業務をすべて書き出します。
洗い出しの方法は、主に3つあります。
ヒアリング方式:担当者に直接聞き取りを行う方法です。業務の背景や判断基準まで把握できるメリットがあります。ただし、本人が「当たり前」と思っている作業は抜け落ちやすいです。
自己記録方式:担当者自身に一定期間の業務を記録してもらう方法です。実態に即したデータが取れますが、記録の負荷がかかります。
既存資料からの抽出方式:業務マニュアル、手順書、ワークフローなどの既存資料から業務を洗い出す方法です。短時間で進められますが、資料に反映されていない業務は漏れます。
実務では、これらを組み合わせて使うのが効果的です。まず既存資料で大枠を把握し、ヒアリングで補完する流れがスムーズです。
ステップ3:分類・整理する
洗い出した業務を、意味のあるカテゴリに分類します。ここで活用できるのが、SIPOC分析などのフレームワークです。
SIPOC分析では、業務を以下の5つの要素で整理します。
- Supplier(供給者):業務に必要なインプットを提供する人・部署
- Input(入力):業務を開始するために必要な情報や素材
- Process(プロセス):業務そのものの手順
- Output(出力):業務の成果物
- Customer(顧客):成果物を受け取る人・部署
この枠組みで整理すると、業務同士のつながりや依存関係が明確になります。
他にも、業務改善フレームワークを活用すれば、「価値を生む業務」と「そうでない業務」の仕分けがしやすくなります。分類の軸は目的に応じて選びましょう。
ステップ4:工数と頻度を記録する
分類した業務ごとに、所要時間と実施頻度を記録します。
記録する項目は以下の通りです。
- 1回あたりの所要時間(分単位で記録)
- 実施頻度(毎日・週次・月次・不定期など)
- 月間の合計工数(所要時間 × 頻度で算出)
この工程で重要なのは、感覚ではなく実測値を使うことです。「だいたい30分くらい」という見積もりと、実際に計測した時間には大きな差があることが多いです。
可能であれば、1〜2週間の業務記録を取ってから数値を確定させましょう。
ステップ5:改善対象を特定する
工数と頻度が明らかになったら、改善対象を選定します。
改善対象の優先度を判断する基準は以下の通りです。
- 工数が大きく、頻度が高い業務:改善のインパクトが大きい
- 手順が定型化されている業務:自動化やツール導入の効果が出やすい
- 特定の人しかできない業務:属人化リスクの解消が急務
- ミスが発生しやすい業務:品質面の改善につながる
すべてを一度に改善しようとせず、インパクトの大きいものから順に着手しましょう。業務の仕組み化の考え方を取り入れると、改善の方向性が定まりやすくなります。
実践例:営業代行会社での業務洗い出し
筆者が営業代行会社の業務改善に関わった際、最初に行ったのが全業務の棚卸しでした。
当時、フォーム営業の管理はスプレッドシートで行われていました。棚卸しの結果、データの入力・集計・レポート作成に膨大な時間がかかっていることが判明しました。
全体像を把握できたことで、スプレッドシートから統合マスタへの移行、さらに自動化へと、段階的に仕組み化を進めることができました。
この経験から得た教訓は、棚卸しをせずにツール導入だけ進めても「部分最適」で終わるということです。どの業務にどれだけの工数がかかっているかを把握しなければ、改善の優先順位を正しく判断できません。



