1.はじめに:ブラウザ操作の自動化とは?
インターネットを利用していると、毎日同じようなブラウザ操作を繰り返すことはありませんか?例えば、特定のサイトへのログイン、情報の収集、フォームへの入力など、定型的で時間のかかる作業です。
ブラウザ操作の自動化とは、これらの手作業で行っている一連の操作を、コンピュータープログラムによって自動で行わせる技術のことです。これにより、私たちは反復的な作業から解放され、より創造的で重要なタスクに時間を費やせるようになります。
自動化のメリットは多岐にわたります。
- 時間と労力の削減: 手作業よりもはるかに高速かつ正確にタスクを完了できます。
- ミスの軽減: 人為的な入力ミスや操作ミスを防ぎます。
- 効率向上: 複数のタスクを同時に実行したり、夜間などのオフピーク時に実行したりできます。
自動化できる操作の例としては、以下のようなものがあります。
操作内容 | 具体例 |
---|---|
サイト訪問 | 特定のURLを開く |
ページ内操作 | ボタンクリック、リンク遷移 |
データ入力 | フォームへのテキスト入力 |
情報収集(スクレイピング) | Webサイトからのデータ抽出 |
これらの自動化技術を活用することで、日々のWebブラウジングが劇的に効率化されます。この記事では、その中でも特に初心者の方におすすめの方法をご紹介していきます。
2.様々なブラウザ自動化の手法
RPAツールを使った方法
ブラウザ操作を自動化する方法の一つとして、RPA(Robotic Process Automation)ツールを利用する方法があります。
RPAツールは、特別なプログラミング知識がなくても、直感的な操作で業務プロセスを自動化できるソフトウェアです。ブラウザ上でのクリックや文字入力といった操作を、画面上で記録したり、事前に用意されたアクションを組み合わせたりすることで、自動化シナリオを作成できます。
<メリット>
- プログラミング不要で導入しやすい
- GUI操作で直感的に自動化設定が可能
- 業務プロセス全体の自動化に適している
<デメリット>
- ツールの導入コストがかかる場合がある
- 複雑な処理や柔軟な対応には限界がある
- ツールの操作方法を別途習得する必要がある
代表的なRPAツールには、UiPath、Automation Anywhere、WinActorなどがあります。これらのツールは、主に定型的な業務の効率化を目的としており、ブラウザ操作の自動化もその機能の一部として提供されています。プログラミングが苦手な方や、様々なデスクトップ操作を含めた業務を自動化したい場合に有効な選択肢と言えるでしょう。
ブラウザ拡張機能を利用する方法
ブラウザ操作を自動化する方法の一つに、ChromeやFirefoxなどのブラウザにインストールできる拡張機能を使う方法があります。
この方法は、プログラミングの知識がほとんどなくても、比較的簡単に自動化を実現できる点が大きなメリットです。多くの拡張機能は、ユーザーがブラウザ上で行った操作(クリック、入力など)を記録し、それを再生することで同じ操作を繰り返す仕組みになっています。
具体的な拡張機能としては、以下のようなものがあります。
- Selenium IDE: Seleniumプロジェクトが提供する拡張機能で、操作の記録・再生が可能です。
- iMacros: 長く使われている自動化・スクレイピング用の拡張機能です。
メリット | デメリット |
---|---|
プログラミング不要 | 複雑な処理には不向き |
操作の記録・再生が容易 | カスタマイズ性に限界がある |
ただし、拡張機能だけでは対応できない複雑な条件分岐や、大量のデータを扱う処理などには限界があります。より高度な自動化を目指す場合は、別の方法を検討する必要があります。
プログラミング言語(Pythonなど)とライブラリを使う方法
プログラミング言語と専用のライブラリを組み合わせることで、ブラウザ操作をより柔軟かつ高度に自動化できます。この方法の主な特徴は以下の通りです。
- 自由度が高い: 複雑なシナリオや動的なコンテンツにも対応しやすいです。
- 機能が豊富: スクレイピングやテストなど、様々な用途に活用できます。
- 学習コスト: ある程度のプログラミングスキルが必要になります。
特にPythonは、その分かりやすい構文と豊富なライブラリから、初心者にも人気の高い言語です。ブラウザ自動化には、PythonとSeleniumという組み合わせがよく使われます。
特徴 | Python + Selenium |
---|---|
学習のしやすさ | Pythonは比較的初心者向けです |
機能 | ブラウザ操作全般(クリック、入力、情報取得など) |
柔軟性 | 高い |
Seleniumは、Webブラウザの操作を自動化するための強力なツールであり、多くのブラウザに対応しています。次の章では、このPythonとSeleniumの組み合わせについて詳しく見ていきましょう。
PythonとSeleniumを選ぶ利点(初心者向け、学習コスト、柔軟性など)
ブラウザ操作の自動化において、PythonとSeleniumの組み合わせは初心者の方にとって多くの利点があります。
まず、Pythonは非常に学びやすいプログラミング言語です。文法がシンプルで直感的であるため、プログラミング経験が少ない方でも比較的スムーズに習得できます。
次に、Seleniumはブラウザ自動化ライブラリとして広く普及しており、情報が豊富です。公式ドキュメントはもちろん、日本語での解説記事やチュートリアルも多く存在するため、学習を進める上で困ったときに解決策を見つけやすいでしょう。
利点 | 詳細 |
---|---|
学習コストの低さ | Pythonの習得しやすさ、豊富な学習リソース |
高い柔軟性 | 複雑なシナリオや多くのWebサイトに対応可能 |
幅広い用途 | Webスクレイピング、テスト自動化など多岐に活用 |
また、Seleniumは非常に柔軟性が高く、様々なブラウザ(Chrome, Firefox, Edgeなど)に対応しています。複雑な操作や特定のWebサイトの構造に合わせたカスタマイズも容易に行えます。これらの点から、学習を始めるには非常に適した組み合わせと言えます。
3.PythonとSeleniumの基本
Seleniumの概要と機能
Seleniumは、主にWebアプリケーションのテスト自動化に使われるオープンソースのフレームワークです。しかし、その強力な機能を利用して、ブラウザでの定型的な操作を自動化するためにも広く活用されています。
Seleniumを使うことで、まるで人間がブラウザを操作しているかのように、以下のような多様なアクションをプログラムから実行できます。
- Webページの操作: 特定のURLへのアクセス、ページの再読み込みなど。
- 要素の特定と操作: ボタンのクリック、テキストボックスへの入力、チェックボックスのON/OFFなど。
- 情報の取得: ページのタイトルやURL、要素内のテキストなどを取得。
- ウィンドウ/タブの操作: 新しいタブを開く、タブを切り替える、ウィンドウを閉じるなど。
Seleniumは様々なプログラミング言語に対応しており、Pythonはその中でも記述がシンプルで扱いやすいため、初心者の方にも特におすすめです。次のセクションでは、Seleniumの中核を担うWebDriverについて解説します。
Selenium WebDriverの役割
Selenium WebDriverは、Seleniumの中核となる重要な機能です。これは、プログラミング言語で書かれたコマンドを、実際のブラウザで実行可能な指示に変換する「橋渡し役」を担っています。
具体的には、以下のような役割があります。
- ブラウザとの直接的な連携: WebDriverは、各ブラウザ(Chrome, Firefoxなど)が提供するネイティブな自動化APIを利用して、ブラウザを直接制御します。これにより、まるで人間が操作しているかのように、正確な操作が可能になります。
- 様々なブラウザへの対応: 各ブラウザに対応したWebDriver(例:ChromeDriver, GeckoDriverなど)が存在するため、同じスクリプトを異なるブラウザで実行できます。
- 柔軟な操作: Webページ上の要素の特定や操作、情報の取得など、幅広い操作を可能にします。
イメージとしては、以下のような流れになります。
ステップ | 内容 |
---|---|
1. スクリプト | 「この要素をクリックして」と指示 |
2. WebDriver | 指示をブラウザが理解できる形に変換 |
3. ブラウザ | 実際に要素をクリックする操作を実行 |
このように、WebDriverがあるからこそ、Pythonなどのプログラミング言語で書いた指示が、実際にブラウザ上で動くのです。
4.準備:開発環境を整える
Pythonのインストール方法
まず、Seleniumを使うためにはPythonが必要です。Pythonの公式ウェブサイトから最新版をダウンロードしてインストールします。多くのOSに対応しています。
各OSごとのインストール方法(例)
OS | インストール方法 |
---|---|
Windows | 公式サイトからインストーラーをダウンロードし実行。パスを通す設定を忘れずに行います。 |
macOS | 公式サイトからインストーラーをダウンロードし実行するか、Homebrewを使います。 |
Linux | パッケージマネージャー(apt, yumなど)を使うのが一般的です。 |
インストールが完了したら、コマンドプロンプトやターミナルを開いてpython --version
またはpython3 --version
と入力し、バージョンが表示されるか確認してください。もし表示されない場合は、パスが正しく設定されていない可能性があります。Pythonのインストール方法に関する詳細は、公式ドキュメントや信頼できる情報源を参照することをおすすめします。
pipによるSeleniumライブラリの導入
Pythonがインストールできたら、次はSeleniumライブラリを導入します。Pythonのパッケージ管理ツールであるpipを使うと、簡単にインストールできます。
コマンドプロンプト(Windows)やターミナル(Mac/Linux)を開き、以下のコマンドを実行してください。
pip install selenium
このコマンドを実行すると、pipがインターネット経由でSeleniumライブラリをダウンロードし、Python環境にインストールしてくれます。インストールが完了すれば、Pythonスクリプト内でimport selenium
のように記述して、Seleniumの機能を利用できるようになります。
念のため、インストールされたライブラリのリストを確認することも可能です。
pip list
このリストの中にselenium
が表示されていれば、正しくインストールされています。
コマンド | 説明 |
---|---|
pip install selenium | Seleniumライブラリの導入 |
pip list | インストール済みリスト確認 |
これで、Seleniumを使うためのライブラリ準備は完了です。
使用するブラウザに合わせたWebDriverの準備と設定
PythonとSeleniumでブラウザを自動操作するには、対象のブラウザごとに「WebDriver」というソフトウェアが必要です。WebDriverは、Seleniumがブラウザと通信するための「橋渡し役」を担います。
使用するブラウザに応じたWebDriverをダウンロードし、Pythonスクリプトからアクセスできる場所に配置します。
ブラウザ名 | 主なWebDriver名 | ダウンロード先(例) |
---|---|---|
Google Chrome | ChromeDriver | ChromeDriver Downloads |
Mozilla Firefox | GeckoDriver (Firefox Driver) | GeckoDriver Releases on GitHub |
Microsoft Edge | Edge WebDriver | Microsoft Edge WebDriver Downloads |
ダウンロードしたWebDriverの実行ファイル(例: chromedriver.exe
や geckodriver
)を、Pythonのスクリプトと同じディレクトリに置くか、システムのPATH環境変数に追加します。これにより、SeleniumがWebDriverを見つけられるようになり、指定したブラウザを起動して操作できるようになります。この準備が整えば、いよいよSeleniumを使った自動操作を開始できます。
5.Seleniumを使った基本的なブラウザ操作
Webブラウザを立ち上げる・閉じる
Seleniumを使ってブラウザ操作を自動化する最初のステップは、WebDriverを使ってWebブラウザを起動することです。Pythonスクリプトから特定のブラウザ(Chrome, Firefoxなど)を立ち上げ、操作できるようになります。
ブラウザを起動するには、使用するブラウザに対応したWebDriverのインスタンスを作成します。例えば、Chromeブラウザを起動する場合は以下のようになります。
from selenium import webdriver
# Chromeブラウザを起動
driver = webdriver.Chrome()
WebDriverのインスタンスが作成されると、指定したブラウザのウィンドウが開きます。
自動化処理が完了したら、開いたブラウザを閉じる必要があります。これにより、メモリなどのリソースが解放されます。ブラウザを閉じるには、quit()
メソッドを使います。
# ブラウザを閉じる
driver.quit()
quit()
メソッドは、WebDriverが制御しているすべてのウィンドウとセッションを終了させます。
起動と終了の基本的な流れは以下のようになります。
操作 | メソッド | 役割 |
---|---|---|
ブラウザ起動 | webdriver.Browser() | WebDriverインスタンス作成 |
ブラウザ終了 | driver.quit() | セッション終了、ウィンドウを閉じる |
このように、ブラウザの起動と終了は、Seleniumによる自動化スクリプトの基本的な開始と終了を示します。
特定のWebページへ移動する
Seleniumを使ってブラウザを立ち上げた後、次に行うのが特定のWebページへの移動です。これはget()
メソッドを使用します。
使い方は非常にシンプルで、移動したいページのURLを引数として渡すだけです。
driver.get("https://example.com")
上記の例では、driver
という変数にWebDriverのインスタンス(例えばChromeやFirefoxなど)が格納されていると仮定しています。
get()
メソッドを実行すると、指定したURLのページがブラウザに読み込まれるのを待ちます。ページの読み込みが完了すると、次のコードが実行されるようになります。これにより、ページが完全に表示される前に要素を探そうとしてエラーになることを防ぎます。
移動したいページのURLは、以下のような形式で指定します。
- 絶対URL:
https://www.google.com/
のように、プロトコル(https://
など)から始まる完全なURL - ファイルパス: ローカルにあるHTMLファイルなどを開く場合は、ファイルのパスを指定することもできます(例:
file:///path/to/your/file.html
)
ページの移動は、自動化スクリプトの最初のステップとして、あるいは特定のリンクをクリックした後に別のページへ遷移する場合など、頻繁に利用する基本的な操作となります。
ページ内の要素を見つける方法(ID, Class Name, XPath, CSS Selectorなど)
Seleniumを使ってブラウザ操作を自動化するには、まず操作したいボタンや入力欄などの「要素」をWebページの中から正確に見つけ出す必要があります。要素を見つける方法はいくつかあり、対象の要素が持つ「属性」や「位置」情報などを使います。
主な要素の指定方法は以下の通りです。
- ID: 要素に一意なIDが割り振られている場合に使用します。最も確実な方法です。
- Class Name: 要素に指定されているクラス名を使用します。複数の要素が同じクラス名を持つことがあります。
- Name: 要素のname属性を使用します。フォーム要素などでよく使われます。
- XPath: XML Path Languageの略で、HTML文書内の要素の位置を階層的に指定する方法です。複雑な指定も可能です。
- CSS Selector: CSSで要素を指定するのと同じ方法です。XPathよりも簡潔に記述できる場合があります。
- Link Text/Partial Link Text: リンク要素のテキスト内容で指定します。
- Tag Name: 要素のタグ名(例: div, a, input)で指定します。
これらの方法を使い分けることで、目的の要素を特定し、次の操作(クリックや文字入力など)に進むことができるようになります。
指定方法 | 特徴 |
---|---|
ID | 最も確実、一意な指定 |
Class Name | 複数の要素に使える |
XPath/CSS Selector | 複雑な構造の要素も指定可能 |
見つけた要素をクリックする
Webページ上のボタンやリンクなど、特定の要素に対して「クリック」操作を行うことは、ブラウザ自動化において非常に一般的です。Seleniumでは、先ほどご紹介した様々な方法で見つけた要素(WebElementオブジェクト)に対して、.click()
というメソッドを使うことでクリック操作を実行できます。
例えば、以下のように記述します。
# 例:特定のボタン要素を見つけてクリックする場合
button_element = driver.find_element(By.ID, "submit-button") # 例としてIDで要素を見つける
button_element.click() # 見つけた要素をクリックする
このように、要素を見つける処理とクリックする処理は分けて記述することが多いです。これにより、コードが読みやすくなります。
クリック操作が完了すると、通常はリンク先のページへ移動したり、フォームが送信されたりといったWebサイト側の処理が実行されます。次の操作に進む前に、ページが完全に読み込まれるのを待つ必要がある場合もあります。これについては後ほど「つまずきやすい点と解決策」の章で詳しく解説します。
様々な要素をクリックすることで、Webサイト上の様々なインタラクションを自動化することが可能です。
テキストフィールドに文字を入力する
Webページ上の検索ボックスや入力フォームのようなテキストフィールドに文字を入力するには、まずその要素を見つける必要があります。要素を見つけたら、Seleniumのsend_keys()
メソッドを使います。
例えば、検索ボックスの要素(ここではsearch_box
という変数に格納されているとします)に「Selenium Python」と入力する場合、以下のように記述します。
search_box.send_keys("Selenium Python")
このメソッドを使うことで、指定したテキストフィールドに指定した文字列を自動的に入力できます。改行や特殊キー(例: Enterキー)を入力したい場合は、Keys
クラスを使用します。
入力内容 | コード例 |
---|---|
文字列 | element.send_keys("入力したい文字") |
Enterキー | from selenium.webdriver.common.keys import Keys element.send_keys(Keys.ENTER) |
このように、send_keys()
メソッドは、テキストフィールドへの基本的な文字入力から、Enterキーによる送信まで、様々な操作を可能にします。
現在のページのタイトルやURLを取得する
Webページを操作している際に、現在表示しているページのタイトルやURLを知りたい場面があるかと思います。Selenium WebDriverを使えば、これらの情報を簡単に取得できます。
ページのタイトルを取得するには、driver.title
を使います。
ページのURLを取得するには、driver.current_url
を使います。
以下に記述例と取得できる値のイメージを示します。
# 現在のページのタイトルを取得
page_title = driver.title
print(f"現在のページタイトル: {page_title}")
# 現在のページのURLを取得
page_url = driver.current_url
print(f"現在のページURL: {page_url}")
例えば、Googleのトップページを表示している場合、以下のような情報が取得できます。
取得項目 | 取得できる値の例 |
---|---|
タイトル | |
URL | https://www.google.com/ (または類似) |
これらの情報は、スクリプトの進行状況を確認したり、特定のページに正しく遷移できたかを確認したりする際に役立ちます。後の章で解説する情報の抜き出し(スクレイピング)を行う際にも、どのページから情報を取得したか記録するために利用できます。
処理を一時停止させる(待機処理)
ブラウザ操作を自動化する際、Webページの読み込みや要素の表示には時間がかかることがあります。スクリプトが要素を探す前にページが完全に読み込まれていないと、エラーになる可能性があります。これを防ぐために「待機処理」が必要です。Seleniumでは主に以下の待機方法が利用できます。
- 明示的な待機 (Explicit Wait)
特定の条件が満たされるまで最大待機時間内で待つ方法です。例えば、「要素が表示されるまで待つ」といった指定ができます。 - 暗黙的な待機 (Implicit Wait)
要素が見つかるまで、指定した最大待機時間内であれば自動的に待つ方法です。一度設定すれば、すべての要素検索に適用されます。 - 強制的な待機 (Time Sleep)
指定した時間だけ無条件にスクリプトの実行を停止する方法です。シンプルですが、ページの読み込み速度に依存しないため、長すぎると無駄な時間が発生し、短すぎるとエラーになる可能性があります。
これらの待機処理を適切に使い分けることで、より安定した自動化スクリプトを作成できます。特に明示的な待機は、特定の要素の表示を確実に待つ場合に有効です。
6.実践:簡単な自動化スクリプト例
Webサイトから情報を抜き出す(スクレイピングの基本)
Seleniumは、Webサイトから特定の情報を抜き出す「スクレイピング」にも活用できます。これは、自動化の応用として非常に役立ちます。
基本的な流れは以下のようになります。
- Seleniumで目的のWebページを開く。
- 抜き出したい情報が含まれるHTML要素を特定する(例: 記事のタイトル、価格など)。
- 特定した要素からテキストや属性などの情報を取得する。
要素の特定には、前の章でご紹介した様々な方法(ID、Class Name、XPathなど)が使えます。例えば、以下のようなコードで要素を見つけてテキストを取得できます。
# 例:特定のクラス名を持つ要素のテキストを取得
element = driver.find_element_by_class_name("article-title")
text = element.text
print(text)
複数の情報を抜き出したり、リスト形式のデータを取得したりすることも可能です。取得したデータは、後続の処理で利用したり、CSVファイルなどに保存したりできます。
情報の種類 | 取得方法の例 |
---|---|
テキスト | .text 属性を使用 |
属性値 | .get_attribute('属性名') メソッドを使用 |
複数の要素 | find_elements_by_... メソッドを使用 |
このように、Seleniumを使うことで、手作業では時間のかかる情報収集を自動化し、効率化することができます。
ログインフォームへの自動入力
Webサイトへのログインは、自動化の典型的な例です。Seleniumを使えば、ユーザー名やパスワードの入力、ログインボタンのクリックといった一連の操作を自動で行えます。
基本的な手順は以下のようになります。
- ユーザー名入力フィールドを見つける: ID、Name、CSS Selector、XPathなどのロケーターを使って要素を特定します。
- ユーザー名を入力する:
send_keys()
メソッドを使って文字列を送信します。 - パスワード入力フィールドを見つける: 同様に要素を特定します。
- パスワードを入力する:
send_keys()
メソッドでパスワードを送信します。 - ログインボタンを見つける: ボタン要素を特定します。
- ログインボタンをクリックする:
click()
メソッドを使ってクリックします。
たとえば、ユーザー名フィールドのIDが username
、パスワードフィールドのIDが password
、ログインボタンのCSSセレクターが #login-btn
だとすると、コードは以下のようになります。
# ユーザー名とパスワードの要素を見つけて入力
driver.find_element_by_id("username").send_keys("your_username")
driver.find_element_by_id("password").send_keys("your_password")
# ログインボタンを見つけてクリック
driver.find_element_by_css_selector("#login-btn").click()
ログインフィールドやボタンの特定には、ブラウザの開発者ツールを活用するのが効果的です。正しい要素を見つけることが、自動入力成功の鍵となります。ページの読み込み完了を待つ処理も重要です。
7.つまずきやすい点と解決策
要素が見つからない時のデバッグ方法
Seleniumでブラウザ操作を自動化する際、最も頻繁に遭遇するのが「要素が見つからない」というエラーです。これは、指定した要素がページの読み込みが完了する前にスクリプトが実行されたり、指定方法が間違っていたりする場合に発生します。
デバッグの主な方法は以下の通りです。
- 要素の特定方法の確認:
- ブラウザの開発者ツール(F12キーなどで開く)を使って、要素のID、Class Name、XPath、CSS Selectorなどが正確か再確認します。特にXPathやCSS Selectorは少しの変化で無効になることがあります。
- 開発者ツールで指定したセレクタを使って要素が特定できるかテストします。
- ページの読み込み待ち:
- 要素が表示されるまで待機する処理(待機処理の章で触れます)が適切に設定されているか確認します。
time.sleep()
のような固定待機ではなく、要素が表示されるまで待つWebDriverWait
を使うのが効果的です。
- iframe内の要素:
- 対象の要素が
<iframe>
タグの中にある場合、そのiframeに切り替える処理が必要です。
- 対象の要素が
確認事項 | 具体的な方法 |
---|---|
セレクタの正確性 | 開発者ツールで要素を検証し、セレクタをコピー |
待機処理の適切性 | WebDriverWait を使用しているか確認 |
iframe内の要素か | 開発者ツールで要素の階層を確認 |
これらの方法を順に試すことで、要素が見つからない原因を特定し、問題を解決できます。
ページの読み込みタイミングへの対応
Seleniumでブラウザ操作を自動化する際、Webページの読み込みが完了する前に次の操作を行おうとしてエラーになることがあります。これは、要素がまだページ上に存在しないためです。
このようなタイミングの問題に対処するためには、「待機処理」が非常に重要です。Seleniumには主に以下の待機方法があります。
- 明示的な待機 (Explicit Waits):
特定の条件が満たされるまで待つ方法です。例えば、「要素が表示されるまで待つ」といった条件を指定できます。メソッド例説明WebDriverWait
とexpected_conditions
指定した条件がTrueになるまで待機します。 - 暗黙的な待機 (Implicit Waits):
指定した時間内であれば、要素が見つかるまでWebDriverが待機し続けます。一度設定すれば、そのWebDriverインスタンス全体に適用されます。driver.implicitly_wait(10) # 10秒まで待機する
これらの待機処理を適切に組み合わせることで、ページの読み込み遅延によるエラーを防ぎ、安定した自動操作を実現できます。特に動的なコンテンツが多いWebサイトでは、明示的な待機が有効な場合が多いです。
8.まとめと更なるステップ
この記事では、PythonとSeleniumを使ったブラウザ操作自動化の基本ステップをご紹介しました。環境構築から基本的な操作、簡単なスクリプト例までを学び、ブラウザ自動化の可能性を感じていただけたのではないでしょうか。
PythonとSeleniumは、Webスクレイピングや自動テストなど、様々な応用が可能です。
更なるステップとして、以下の点に挑戦してみましょう。
- 応用的な操作:
- ドロップダウンメニューの操作
- ファイルのアップロード・ダウンロード
- JavaScriptの実行
- 待機処理の理解:
- 明示的な待機(Explicit Wait)
- 暗黙的な待機(Implicit Wait)
- 高度な技術:
- Headlessブラウザの利用
- ページオブジェクトモデル(POM)
これらの知識を深めることで、より複雑なシナリオの自動化や、堅牢なスクリプト作成が可能になります。ぜひ、色々なWebサイトで試してみてください。自動化のスキルは、あなたの可能性を大きく広げてくれるはずです。
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